フランスが「籍が入ったままでも恋愛OK」なワケ
結婚とは何だろう。制度なのか、それとも関係性なのか。フランスに暮らしていると、その問いを自然と突きつけられる瞬間がある。
事実婚、PACS(※)、離婚、再構築――日本とは異なるさまざまな選択肢があるなかで、フランスの人々はどのように「ふたりの形」を選び取っているのか。日本との違いはどこにあるのか。
このシリーズでは、パリ近郊に住む筆者(3児の母)が、フランスの日常を通して見えてくる、結婚と夫婦の多様なかたちを考える。日本で「結婚ってどうなの?」と疑問を持ったり、「結婚生活、なんか苦しい」と感じたりしている既婚者の方にぜひ読んでいただきたい。もしかすると、あなたの疑問や悩みを解決するヒントがあるかも?
第七回となる今回は「籍が入っているままで恋愛すること」について紹介していく。
※PACS(パクス):1999年に導入された、「民事連帯協約」とも呼ばれるパートナーシップ制度。同性・異性カップルが結婚(法律婚)に近い法的な保護(税制・社会保障・財産など)を受けながら、より簡単な手続きで契約や解消が可能。
離婚協議中と証明できれば、恋愛は違法ではないフランス

フランスで暮らしていると、日本ではちょっと耳を疑ってしまうようなエピソードを聞くことがある。
離婚経験者の話を聞くと、前の配偶者と別れた時期と、今のパートナーと出会った時期が、ガッツリと重なっているのだ。日本ではいわゆる『不倫(不貞行為)』のはず。
でも、当の本人は悪びれる様子もなく、むしろ「あのときは本当に彼に救われたの」と堂々と今の幸せを語っている。これには、結婚制度や「籍」のとらえ方に対する、フランスならではの驚きの「カラクリ」が隠されているのだ。
背景にあるのは、第一回でも触れた「フランスの離婚手続きの圧倒的な遅さ」。
フランスで離婚をする場合、たとえお互いがスムーズに合意している「協議離婚」であっても、あるいは揉めに揉めて「裁判」になる離婚であっても、どちらにせよ必ず夫婦それぞれに弁護士を挟む必要がある。
しかも、裁判所をはじめとした行政の手続きは驚くほど遅い。どれだけ「早く別れたい」と思っていても、協議離婚でも数ヶ月、裁判になれば2年以上、4年かかることもザラである。別れると決まった相手と何年もずるずる婚姻関係を結ぶのは、どちらにとってもつらい。
そこで登場するのが、弁護士から発行される「この人は現在、離婚協議中です」という証明書だ。この証明書が、水戸黄門の印籠のような役割を果たしてくれる。
これさえあれば、まだ籍を入れた状態でも、他の誰かと恋愛しても「違法」とならないのだ。

パリ近郊で暮らすフランス人のAさん(30代)も、この仕組みに救われた一人だった。
「元夫との話し合いも行政の手続きも、すべてがうまくいかなくて、当時は心も体も限界だったの。そんな中で、今の彼とマッチングアプリで出会って、ものすごく救われたわ」
日本だったら不倫となるはずだが、フランスでは違う。
「堂々と手を繋いでデートしたわよ。役所から『シングルマザーの手続きをするのに必要だ」って言われて、弁護士から離婚協議中の証明書をもらっていたしね。もちろん、その間は彼と籍を入れることはできないけど」
ちなみに彼の前に、別の男性に「夫と離婚協議中だ」とアプリのメッセージで伝えたら「僕も離婚協議中だよ、お互いに子どもを連れて公園でデートしよう」と返されたこともあったんだとか……。
今では離婚も成立して、子どもたちも一緒に住んでるらしい。彼との子どもが生まれたら、事実婚(パックス)をする予定だという。
「籍は重い」けど、すぐに離婚できる日本

一方で、私たちの母国である日本はどうだろう。
日本は書類(離婚届)を一枚提出すれば、役所の窓口でその日のうちに一瞬で手続きが完了する。でも、スムーズに戸籍を切り替えられる仕組みがあるからこそ、「籍が入っている期間」のルールや線引きはとても明確になっている。
日本では法律上(民法)、婚姻届が出ている以上は、配偶者以外の第三者と肉体関係を持つことが「不貞行為(不法行為)」と見なされる。もしこれが原因で離婚に発展する場合、責任のある側が支払う裁判上の慰謝料(いわば法律上のペナルティ)の相場は、だいたい100万円〜300万円だ。
日本で暮らすBさん(40代・女性)は、こう語る。
「夫とはもう何年も心が離れていて、完全に夫婦関係は冷め切っていました。そんな時に別の男性を好きになってしまって、それが夫にバレて、離婚することになったんです。せめてもの救いは、子どもの親権を無事にとれたことでした」
「不倫をした側は子どもの親権をとれないのでは?」と疑問に思う読者もいるかもしれない。実は「親権(子どもの福祉)」と「不貞行為(夫婦間の破綻責任)」は、別問題として扱われることが多い。
「私は専業主婦だから、子どもを見ていた時間が圧倒的に元夫よりも長かったこともあり、親権は取れました。でも、200万円の慰謝料を支払うことになりました」
親権と不貞行為で話は別だけど、籍を破ってしまったことへの対価として、ペナルティはきっちりと科される仕組みになっている。
戸籍がクリアになるまではしっかりと今の関係に責任を持つ、という日本のルール。手続きが公的に一瞬で終わる手軽さがあるからこそ、「籍」の境界線がしっかり引かれている国なのだ。
籍に人生すべてを縛りつける必要はないのかも?

この「離婚協議中なら恋愛OK」というフランスの合理的な仕組みを知ると、誰もが次の恋愛にオープンな国のように思えるかもしれない。でも、現実はそこまで単純ではない。
フランスに暮らす、ある離婚協議中の子連れ女性は、こんなリアルな経験を語ってくれた。
「マッチングアプリでいいなと思った人に『今、離婚協議中の夫がいるの』と伝えたら、次の瞬間に急にブロックされたことがあるわ。
それに、電車で隣になっていい雰囲気になって、しばらく連絡を取り合っていた男性もいたの。でも、私の状況を知った彼から『やっぱり子どもがいる人とは、自分の新しい人生は考えられない』って言われてしまったの」
いくら証明書があるからといって、すべての男性が「じゃあ、彼女にアプローチしよう」と思うわけではないのだろう。
再婚したい女性の悩みや、そういう女性と出会った時の男の本音は、どの国も似ているのかもしれない。
ただ、このフランスの仕組みを知ると、「戸籍上の関係」に人生のすべてを縛り付けなくてもいいのかもしれない、と感じるんじゃないだろうか。
<文/綾部まと>
綾部まと | ライター、作家。明治大学法学部を卒業後、三菱UFJ銀行の法人営業、経済メディア「NewsPicks」で有名なユーザーベースを経て独立。主に経済や恋愛について執筆。フランス在住。 X:@yel_ranunculus Instagram:ayabemato note:綾部まと@フランスの物書き|note |
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綾部まと