離婚=リセットではない時代へ。共同親権から考える「相手とのちょうどいい距離」
[連載]フランスから考える結婚と夫婦のカタチ 第5回
結婚とは何だろう。制度なのか、それとも関係性なのか。フランスに暮らしていると、その問いを自然と突きつけられる瞬間がある。
事実婚、PACS(※)、離婚、再構築――日本とは異なるさまざまな選択肢があるなかで、フランスの人々はどのように「ふたりの形」を選び取っているのか。日本との違いはどこにあるのか。
このシリーズでは、パリ近郊に住む筆者(3児の母)が、フランスの日常を通して見えてくる、結婚と夫婦の多様なかたちを考える。日本で「結婚ってどうなの?」と疑問を持ったり、「結婚生活、なんか苦しい」と感じたりしている既婚者の方にぜひ読んでいただきたい。もしかすると、あなたの疑問や悩みを解決するヒントがあるかも?
第5回となる今回は「共同親権と、相手との距離感の悩み」について紹介していく。
※PACS(パクス):1999年に導入された、「民事連帯協約」とも呼ばれるパートナーシップ制度。同性・異性カップルが結婚(法律婚)に近い法的な保護(税制・社会保障・財産など)を受けながら、より簡単な手続きで契約や解消が可能。
離婚後に日本では「84.5%が母親の単独親権」

2026年4月、日本の家族制度は明治以来の大きな転換期を迎えた。離婚したあとも「共同親権」を選べるようになったのだ。
「親権」とは、子どものために、子の養育や教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限や義務のことをいう。
これまでの日本では「単独親権」しか認められていなかった。厚生労働省によると、未成年の子どもがいる離婚のうち、「母親がすべての親権を持つ」割合は84.5%だ。今までは母親が子どもを引き取って父親とほぼ縁を切り、子どもとの面会交流を許す以外、養育や教育などは一切干渉させないことができた。
それに対して共同親権は、離婚しても、お互い協力して子どもを育てていかなくてはならない。相手とは距離をおくことができない。
「離婚したいほど嫌な相手なのに、別れたあとも連絡を取り合わなきゃいけないの?」「子どもの進学や引越しのたびに、いちいち話し合わなきゃいけないなんて」と、不安や戸惑いを感じている人は多いんじゃないだろうか。相手とどれくらいの距離でいればストレスがないのか、その基準が未知数だからだ。
じゃあ、この共同親権がはるか昔から当たり前の国では、どうしているのだろうか。
フランスでは「98.0%が共同親権」

フランスでは1987年、今から約40年近く前から共同親権が選択可能だった。フランス司法省によると、未成年の子どもがいる離婚において、共同親権をそのまま維持する元夫婦の割合は98.0%にのぼる。
つまり、フランスで離婚するほぼすべてのカップルが、別れたあとも法的な親権を半分ずつ持ち続けているのだ。どちらか片方だけが単独親権を持つケースは、わずか2.0%にすぎない。
これは、離婚してどれほど夫婦関係が破綻しようとも、「大人の都合と、子どもの親であることは完全に別」という文化が浸透していることが大きい。
では、実際の暮らし(監護権)はどうしているのか。
ひとつが、子どもが1週間ごとに父親と母親の家を交互に行き来するスタイルだ。フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、離別家庭の子どもの約12.0%がこの仕組みで暮らしている。
この仕組みを取っている私の友人いわく、「毎週金曜日の夜に、子どもの受け渡しをする」とのこと。子どもの学校や習い事などの環境を変えないように、お互いの家は近くにして、子どもが寝られる部屋もお互いの家に用意しているらしい。
ふたつめは、片方が「週末+長期休暇の半分を一緒に過ごす」というスタイルである。86.0%の子どもは母親の家を主な生活拠点にしていて、平日は主に母親が面倒を見ている。
父親は、金曜の学校終わりから日曜の夜までといった週末や、春休みや夏休みなど長期休暇の半分を受け持つ。その間、子どもたちは父親の家で過ごす。
それだけ聞くと、子どもを育てながら夫婦の距離も保てる、合理的なスタイルのように思える。
でも、物理的には割り切れても、心の中で割り切れないこともある。
相手と距離をおきたくて「言いたいことも、お金の負担も我慢する」

フランスで共同親権のもと、平日に子どもを育てる私の友人が、その「割り切れなさ」をリアルに語ってくれた。
彼女がまず頭を悩ませていたのが、元夫との「教育方針やルールのズレ」だ。
「私の家ではゲームの時間やスマホの使い方に厳しい制限を設けているのに、週末に父親の家に行くと『好きなだけゲームをやっていい』と言われて、やりたい放題。父親の家で夜更かしする生活習慣をすっかり引きずったまま平日に帰ってきたり、ひどいときには内緒でゲームに高額な課金をさせてもらった状態で戻ってくる。せっかく私が作ってきた生活リズムや金銭感覚をかき乱されるのが、本当にストレスでしかない」
さらに、日々の生活における「見えない負担」の非対称性も浮かび上がってくる。
「平日に学校へ送り出して、毎日の宿題を必死で見たり、習い事の送り迎えを分刻みでこなしたりしているのは、いつだって私。それなのに元夫は、週末に子どもを引き取っても、自分の実家に連れて行って親族大勢での長い食事会(フランスの伝統的な日曜日の家族の集まり)で過ごしてばかりいる。実家に丸投げするくらいなら、もっと子どもたちが喜ぶ別の場所へ連れて行って、色々な体験をさせてほしいのに……」
また、お金についても悩んでいるという。
共同親権である以上、子どもの大きな出費は双方が負担するのが基本だ。でも、パソコンの購入費用や、毎月の習い事の月謝、メガネの買い替え費用など、日々の生活の中で突発的に発生するまとまったお金は、平日のメインの生活拠点である母親側が、立て替えて支払うことになる。
「別れた相手とは、できることならコミュニケーションなんて取りたくない。お金をきっちり請求するために、わざわざ元夫に連絡を入れて、金額の妥当性を説明して、振り込みを催促する――その一連の精神的なコストを天秤にかけると、『もういい、自分で払ったほうがマシ』って、結局は私が負担してしまうケースが多い」
「相手と距離を置きたい」という思いは、精神的や金銭的な負担となって、重くのしかかってくる。
他にもフランスには、距離を置かせてくれない仕組みはまだまだある。
別れても避けては通れない「業務連絡」

たとえば、子ども名義の銀行口座を解約しようとするときだ。単独親権の日本であれば、同居している親が窓口で手続きを済ませられるけれど、共同親権のフランスではそうはいかない。口座を一つ解約するだけであっても、父親と母親、双方の同意と署名が必要になる。
また、ヨーロッパでは子どもの連れ去りに対する警戒が非常に強い。そのため、親が子どもを連れてフランス国外へ旅行や移動をしようとする際、たとえ数日間であっても、もう片方の親がそれを承諾していることを証明する「渡航同意書」を携帯する必要がある。もしこれを持たずに国境を越えようとすれば、最悪の場合、誘拐や連れ去りと見なされて拘束されかねない。
別れた相手とは、顔を見るのも嫌だし、一切の関わりを絶ちたい。そう思うからこそ、膨大なエネルギーを費やして離婚という選択をしたはずだ。それなのに、業務連絡とはいえ、相手と一定の距離を保ち続けなればならない。
共同親権は、終わりのないコミュニケーションを元夫婦に強制し続ける、距離をおかせてくれない制度でもあるのだ。
自分にとって「ちょうどいい距離感」を考えてみては?

日本のように「離婚したら関係性はバサッと強制終了(単独親権)になる」のも、フランスのように「一度決まれば共同親権で別れたあとも関係が強制継続される」のも、どちらもそれぞれに異なる苦難とモヤモヤがある。
日本でも共同親権が導入されて、フランスのような悩みが増えてくるだろう。「もうこれ以上、相手と関わりたくない」と思って離婚を選ぶのに、子どものためにどうしても距離を近づけなければいけない。
そのときに、ストレスになるコミュニケーションをどれだけ減らせるか。どうやって減らすのか、あるいはどこかで諦めるのか。そもそも、自分は相手とどれくらいの距離でいたくて、どれくらいなら耐えられるのか。
離婚を検討していない人も、新しく始まった日本の共同親権という枠組みを前に、自分にとっての相手との「ちょうどいい距離感」を、考えてみるのもいいのかもしれない。
<文/綾部まと>
綾部まと | ライター、作家。明治大学法学部を卒業後、三菱UFJ銀行の法人営業、経済メディア「NewsPicks」で有名なユーザーベースを経て独立。主に経済や恋愛について執筆。フランス在住。 X:@yel_ranunculus Instagram:ayabemato note:綾部まと@フランスの物書き|note |
参考文献:
・法務省「法制審議会・家族法制部会ヒアリング資料」、2021
https://www.moj.go.jp/content/001349397.pdf
・国立国会図書館「ひとり親/ふたり親世帯の格差と貧困の影響」、2019年https://dl.ndl.go.jp/pid/11152536
・東京都福祉局「東京の子供と家庭に関する実態調査」、2023年https://www.spt.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/04/27/26.html
・法務省「父母の離婚後の子の養育に関する民法等改正」、2026年https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00310.html
・フランス司法省「L’exercice de l’autorité parentale après le divorce ou la séparation des parents non mariés」、2007年https://www.justice.gouv.fr/sites/default/files/migrations/portail/art_pix/1_1_071108autoriteparentaleaprdivousep.pdf
・フランス国立統計経済研究所(INSEE)「En 2020, 12 % des enfants dont les parents sont séparés vivent en résidence alternée」、2021年 https://www.insee.fr/fr/statistiques/5227614
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