【連載】結婚って何だろう|結婚したらセックスは義務か?
長年、あいまいな状態に置かれつづけてきた「結婚とセックスの問題」に、とうとうメスが入れられようとしています。
2026年1月、フランスの議会が「結婚はセックスの義務を意味しない」ことを民法に明記する法案を可決したのです。この流れは、欧州各国に広がりそうです。

日本では、どうでしょうか?
実は、日本ではいまだ性生活が夫婦の義務とされているのです。
昭和37年に最高裁が下した「夫婦の性生活は婚姻の基本となるべき重要事項」との判断が現在も残っています(※1)。
※1 最高裁第三小法廷 昭和37年2月6日判決(昭和34年(才)第888号)「夫婦の性生活は婚姻の基本となるべき重要事項」
最近でも、例えば平成23年の東京地方裁判所において、次の判断が示されています。
「婚姻中の夫婦にとって、性生活は互いの愛情を確かめ子を持つことにもつながる極めて重要な要素であり、夫婦の一方はそれぞれ他方に対し性交渉を行うことに協力すべき一般的義務を負うということができる。」(※2)
※2 東京地裁平成23年 3月15日判決(平21年(ワ)第38347号・平22年(ワ)第693号)
この現代日本において、こんな義務があるとは驚きですが、法律上は「夫婦の一般的義務」とされ続けているのです。
法律における「夫婦の性生活」の位置づけ

夫婦の性生活に関する日本の法律上の解釈を解説していきましょう。
夫婦には法律上、次の4つの義務があるとされています。
- 同居義務 ─── 一緒に住む義務
- 協力義務 ─── 互いに協力し、支え合う義務
- 扶助義務 ─── 経済的に支える義務(※)
- 貞操義務 ─── 配偶者以外の異性と性的関係を持たない義務
※夫婦の共同生活のための費用を互いに分担する義務ですが、一方が主婦(主夫)の場合は働き手に経済的な扶助義務が生じます。経済力に差がある場合は、相手が自分と同等の生活が送れるように配慮する生活保持義務もあります。
①~③は民法752条、③の経済的援助の具体は民法760条に記載されています。④は明文化されていませんが、これまでの判例の積み重ねにより、不貞行為(配偶者以外の異性と性的関係を持つこと)は不法行為(民法709条)となるほか、「法定離婚事由」(後述)にも該当します。
「夫婦の性生活の義務は、どこにあるの?」とお思いでしょうが、もうしばらくお待ちください。
民法は、夫婦の義務のほか、「こんな場合は夫婦関係が破綻しているから離婚する理由になるよ」という、法定離婚事由を定めています(民法770条)。
次の5つです。
1)配偶者に不貞な行為があったとき。
2)配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3)配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
4)配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
このうち、「5」が重要になります。
つまり、夫婦の性生活は、結婚の基本になる重要な要素だから、それがない状態は「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するのです。
ゆえに、法律上、結婚後のセックスは義務とされます。
もちろん、夫婦間のすべての義務がそうですが、互いに合意や暗黙の了解があれば義務違反とはみなされません。
ですから、何度か拒否したくらいには「義務違反」にはなりませんが、相手が何度も求めてきているのにずっと拒否している状態は「義務違反」として離婚の理由になります。
「義務セックス」「夜のお勤め」、実は義務…!
「夫/妻とのセックスが苦痛」という悩みは、古くからあります。
男尊女卑の風潮が残り、専業主婦が多かった昭和の時代ならいざ知らず、男女公平の考え方が浸透し、個人の意思や自由に重きがおかれる現代の日本社会であっても、夫婦間においてはいまだ「義務セックス」「夜のお勤め」が求められる状態のままなのです。
あまり語られませんが、これが現実。
結婚という形や制度が、時代に合わなくなってきているあらわれでしょう。
日本でも、性生活を夫婦の義務とすべきではないとの考え方は広がりつつありますが、フランスのように法改正まで進むにはまだまだ時間がかかりそうです。
なお、夫婦間におけるセックスの強要は、2023年の刑法改正により「不同意性交」という概念が生まれたことにより「違法である」との認識に変わっており、夫婦間での強姦罪が成立しなかった以前より環境は変わりつつあります。
だから、離婚を考えなければ性行為の拒否はできるようになりました。
しかし、拒否しつづければ離婚に発展する可能性は残ったまま。これって、現代の価値観に合っているでしょうか?
セックスレス夫婦が半数以上という実態
とはいえ、現代の日本社会では、夫婦のセックスレスが蔓延しています。夫婦だけでなく、若いカップル同士もセックスレスの傾向にあり、社会全体がセックスレス化しているのです。
日本家族計画協会とジェックス株式会社が行った「【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2024」では、婚姻関係にあるカップルの64.2%がセックスレスと判明しました(※)。
※セックスレスの定義:特殊な事情が認められないにも関わらず、性交あるいはセクシュアル・コンタクトが 1ヶ月以上なく、その後も継続されることが予想できる状態(日本性科学会)。
Healmate(ヒールメイト)を運営するレゾンデートル株式会社が2023年に、一般の既婚者4,000人に行ったアンケート調査でも、20代~50代既婚者の68.2%がセックスレス傾向にあるとの結果が出ています。


つまり、多くの夫婦において、夫婦におけるセックスの義務は形骸化しているのです。
日本全体がこのような状況のなか、苦痛に思うセックスを受け入れざるを得ない状態が続いている方もいる。かなりいびつな状態に思えるのですが、いかがでしょうか。
セックスしないとしたら夫婦とは何か?

しかし一方で、性行為は義務と押し付けるには違和感を感じつつも、「セックスしない夫婦って何なのだろう」との思いも抱きます。
当然「家族」なんですが、男女の部分、もちろん性的関係だけでなく、心情的な部分をどこに持っていけばよいのか。我慢するべきなのか。
前回の記事でご紹介したとおり、私たちは恋愛結婚を当然する社会に生まれました。恋愛で結婚し、その後、恋愛感情が消えたなら、その感情(本能)は自分のなかから消し去る。これも少しいびつに思えます。
結婚=生活、家の存続
の時代なら何の違和感も抱かなかったでしょう。そんなことを言っていられない、生活するだけで手一杯な時代。あるいは家のために生きるのが当然とされていた時代です。
しかし現代は違います。
私たちは様々な情報を浴び、様々な感情や情操が育てられています。また、個々人が尊重される多様性の時代です。
そのうえ、牛窪恵さんが著書『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)のなかで、脳科学的な観点から「恋愛と結婚は別物。まぜるな危険」と述べていますが、すでに両者が混ぜられてしまっている状態。
我々は、男女がなくなった結婚生活の空虚さを、どのように埋めればよいでしょうか。
何かに対する依存(アルコール、ギャンブル、ゲーム、動画など)、推し活などで埋めている人が多いのも実情だと思いますが、代償行為のような気がしてなりません。
前回の記事で紹介した、「家庭や日常とは切り離した、癒し合い、支え合う既婚者同士の新しい関係=ヒールメイト」の存在を認める方向で、結婚という形を再定義する必要があるのではないでしょうか。
おわりに
パリ在住のライター・綾部まとさんが連載記事「「夜のお勤め」はマスト?──フランスにおける夫婦間の性事情」のなかで、フランスの夫婦関係について次のように書いています。
「男女の仲じゃなくなったら、夫婦としても終わり」という考え方が根っこにある。
ある日本人の女性が、突然、フランス人夫から離婚を言い渡された。理由は「もう君のことを、女性として見ることができなくなった」とのこと。たしかに体の関係はしばらくなかったけど、それなりに会話もあったし、仲が悪いわけじゃなかったから、彼女としては青天の霹靂だったという。
フランスでは、この手の離婚話も多い。彼女のように相手の男性に経済力があったりすると、決断のスピードも早い。
「フランスのマダムは歳をとってもおしゃれ」と言うけれど、彼女たちも必死なのだ。セクシーな下着を身につけたり、きれいな洋服を着たり、いつまでも頑張らなくてはならない。
フランスの夫婦関係や婚姻制度が理想的と語られることもありますが、「男女の仲でなくなったらすぐ離婚」が現実のようです。とても日本の価値観には合わないでしょう。
日本は、もう少し情を大切にする文化であり、あいまいさを好む文化です。ヒールメイトを許容するなど、もう少し選択の幅を広げる結婚の様々な形があってもよいように思えますが、皆さんはいかがでしょうか。
今後も、結婚とは何かについて、様々な角度から考えていきたいと思います。
(文=浦野圭介)
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